KotlinはJavaとの互換性があるので、Javaで構築した既存のシステムの一部を書き換えたり、言語だけを変えて新しいシステムを構築したりするケースが多いかなと思います。しかし、同じJVM上で動作するKotlinとJavaでも、フレームワークやライブラリの違いにより改善できる箇所もあります。
Javaの歴史が長いこともあり、Javaのフレームワークやライブラリは非常に多くの機能を提供していますが、Kotlinではより簡潔で直感的なコードを書くことができる場合があります。また、その中ではKotlinの特性を活かした設計が可能だったり、性能の向上が期待できたりします。
今回はそのような改善の一例として、Ktorでのリクエストバリデーションの実装方法について紹介します。
既存
実務ではKtor、ExposedといったKotlin用のフレームワークを採用しています。ただ一部ではJavaのライブラリに依存していて、直列化ではJackson、リクエストのバリデーションではjakarta.validationを使用していました。
JavaやKotlinでよく使われるSpring Bootの場合、これらのライブラリを使うのがとても簡単ですね。例えば、リクエストのバリデーションは@Valid
や@Validated
アノテーションで自動的に行うことができます。
しかし、Ktorではそうでもいきません。なので、Ktorのリクエストバリデーションは、手動で行う必要がありました。例えば、以下のようにしていました。
// リクエストのバリデーションを行う
object AnnotationValidator {
private val validator: Validator = Validation.buildDefaultValidatorFactory().validator
fun getViolationMessages(model: Any?): List<String> {
model ?: return emptyList()
val violations = validator.validate(model)
return violations.map { "${it.propertyPath} ${it.message}" }
}
}
// バリデーションを行うインターフェース
interface Validatable(
fun validate(): List<String>
)
// リクエストボディ
data class CreateLogRequest(
@field:NotNull
@field:NotBlank
@field:Size(max = 36)
@field:Pattern(regexp = "^[0-9a-fA-F]{8}-[0-9a-fA-F]{4}-[1-5][0-9a-fA-F]{3}-[89abAB][0-9a-fA-F]{3}-[0-9a-fA-F]{12}$")
@JsonProperty("user_id")
val userId: String?,
@field:NotNull
@field:NotBlank
@field:Size(max = 2048)
@JsonProperty("referral")
val referral: String?,
@field:NotNull
@field:NotBlank
@field:Size(max = 2048)
@JsonProperty("user_agent")
val userAgent: String?
) : Validatable {
override fun validate(): List<String> {
return AnnotationValidator.getViolationMessages(this)
}
}
// コントローラー
class LogController : KoinComponent {
private val logUseCase: sLogUseCase by inject()
fun createLog(request: CreateLogRequest): CreateLogResponse {
val validationErrors = request.validate()
if (validationErrors.isNotEmpty()) {
throw BadRequestException("Validation failed: ${validationErrors.joinToString(", ")}")
}
return logUseCase.createLog(request)
}
}
ここで自分が問題と思ったのは、以下のようなものがあります。
- リクエストのバリデーションを手動で行う必要があるため、コードが冗長になりやすい。
- 各コントローラーやリクエストに対して同じようなバリデーションコードを書く必要があるため、コードの重複が発生しやすい。
- バリデーションと直列化でアノテーションに依存しているため、リフレクションによるパフォーマンスの低下や、アノテーションの変更が必要な場合にコードの修正が必要になる。
- プロパティの型をアノテーションで指定するため、型安全なコードが書きにくい。
なので、これらの問題を解決するために、Ktorのリクエストバリデーションを改善する方法を考えました。
改善
自分で考えた改善策は以下のようなものです。
- Ktor公式のRequest Validationを使用して、アノテーションに依存しないバリデーションを実装する。
- バリデーションのロジックを共通化できるようにする。
- JacksonからKotlinx Serializationに移行して、アノテーションをさらに減らしつつとパフォーマンスを向上させる。
それぞれ分けると以下のような内容になります。
KtorのRequest Validationを使用する
まずはValidatableControllerというインターフェースを作成して、それぞれのコントローラーで実装します。このインターフェースは、KtorのRequest Validationを使用してリクエストのバリデーションを行うためのもので、Ktorのプラグインに登録するためのメソッドを持っています。
interface ValidatableController {
fun configureValidation(validationConfig: RequestValidationConfig)
}
そして、data classを修正します。jakarta.validationのアノテーションは削除し、Validatableというインターフェースも削除します。
data class CreateLogRequest(
@JsonProperty("user_id")
val userId: String?,
@JsonProperty("referral")
val referral: String?,
@JsonProperty("user_agent")
val userAgent: String?
)
次に、コントローラーを修正します。ValidatableControllerを継承させ、バリデーションのロジックをconfigureValidation
メソッドに移動し、KtorのRequest Validationを使用してリクエストのバリデーションを行います。
class LogController : KoinComponent, ValidatableController {
private val logUseCase: LogUseCase by inject()
override fun configureValidation(validationConfig: RequestValidationConfig) {
validationConfig.validate<CreateLogRequest> { request ->
when {
request.userId == null -> ValidationResult.Invalid("User ID must not be null")
request.userId.isBlank() -> ValidationResult.Invalid("User ID must not be blank")
request.userId.length > 36 -> ValidationResult.Invalid("User ID must not exceed 36 characters")
!request.userId.matches(Regex("^[0-9a-fA-F]{8}-[0-9a-fA-F]{4}-[1-5][0-9a-fA-F]{3}-[89abAB][0-9a-fA-F]{3}-[0-9a-fA-F]{12}$")) ->
ValidationResult.Invalid("User ID must be a valid UUID format")
request.referral == null -> ValidationResult.Invalid("Referral must not be null")
request.referral.isBlank() -> ValidationResult.Invalid("Referral must not be blank")
request.referral.length > 2048 -> ValidationResult.Invalid("Referral must not exceed 2048 characters")
request.userAgent == null -> ValidationResult.Invalid("User Agent must not be null")
request.userAgent.isBlank() -> ValidationResult.Invalid("User Agent must not be blank")
request.userAgent.length > 2048 -> ValidationResult.Invalid("User Agent must not exceed 2048 characters")
else -> ValidationResult.Valid
}
}
}
fun createLog(request: CreateLogRequest): CreateLogResponse {
return logUseCase.createLog(request)
}
}
このようにすることで、KtorのRequest Validationを使用してリクエストのバリデーションを行うことができます。これにより、アノテーションに依存せず、コードの冗長性を減らすことができます。
モジュールの設定
次は、ValidationControllerをKtorのモジュールとして設定します。インターフェースとしてValidatableController
を定義した理由は、DIで使用しているKoinを使用して、すべてのコントローラーを取得し、KtorのRequest Validationに登録するためです。
まずKoinではinterfaceに対して実装クラスをバインディングするいくつかの方法があります。代表的には、以下のような方法があるでしょう。
val koinModule = module {
single<ValidatableController> { AccessLogController() }
}
この方法では、ValidatableController
インターフェースを実装したクラスを単一のインスタンスとして登録します。しかし、これでは複数のValidatableController
を登録することができません。
この場合、get()
を使用して、1つのValidatableController
のみを取得することはできます。しかしここでやりたいことは、複数のValidatableController
を取得して、リクエストのバリデーションを共通化することなのでこの方法は適していません。
またの方法が、bindを使用する方法です。
val koinModule = module {
single { LogController() } bind ValidatableController::class
single { AnotherController() } bind ValidatableController::class
}
先ほどのコードとは違って、bind
を使用することで、Koinはそのインターフェースを実装したすべてのクラスを取得できるようになります。なので、以下のようなコードで全てのコントローラーを取得することができます。
fun Application.configureRequestValidation() {
val validatableControllers: List<ValidatableController> = getKoin().getAll()
install(RequestValidation) {
validatableControllers.forEach { controller ->
controller.configureValidation(this)
}
}
}
こうすることでリクエストのバリデーションを共通化することができます。これからは新しいコントローラーを追加する際も、ValidatableController
インターフェースを実装するだけで、KtorのRequest Validationに自動的に登録されるようになります。
Kotlinx Serializationの使用
最後に、Kotlinx Serializationを使用して直列化を行います。これにより、アノテーションの使用を減らし、パフォーマンスを向上させることができます。
Kotlinx Serializationは、KSP(Kotlin Symbol Processing)を使用して、コンパイル時に直列化のコードを生成します。これにより、リフレクションを使用せずに直列化を行うことができ、パフォーマンスの向上が期待できまし、リクエストのバリデーションでも型安全なコードを書くことができるため、コードの可読性も向上します。
まず、Kotlinx Serializationを使用するために、既存のJacksonからKotlinx Serializationに移行します。以下のように、ContentNegotiationプラグインを使用してシリアライザを設定します。プロパティの命名規則をスネークケースに変更するために、JsonNamingStrategy.SnakeCase
を使用することができます。
fun Application.configureContentNegotiation() {
install(ContentNegotiation) {
json(
Json {
namingStrategy = JsonNamingStrategy.SnakeCase
}
)
}
}
次に、リクエストボディのデータクラスに@Serializable
アノテーションを追加します。Kotlinx Serializationでは@Serializableだけでスネークケースへの変換も可能となり、プロパティ名にアノテーションが不要になります。また、プロパティはそのまま型を指定するだけです。型を指定することでNullチェックも自動になります。
@Serializable
data class CreateLogRequest(
val userId: UUID,
val referral: String,
val userAgent: String
)
次に、コントローラのバリデーションを修正します。userIdの型がString
からUUID
に変更されたので、正規表現のチェックは不要になりました。かなりスッキリしましたね。
class LogController : KoinComponent, ValidatableController {
private val logUseCase: LogUseCase by inject()
override fun configureValidation(validationConfig: RequestValidationConfig) {
validationConfig.validate<CreateLogRequest> { request ->
when {
request.referral.isBlank() -> ValidationResult.Invalid("Referral must not be blank")
request.referral.length > 2048 -> ValidationResult.Invalid("Referral must not exceed 2048 characters")
request.userAgent.isBlank() -> ValidationResult.Invalid("User Agent must not be blank")
request.userAgent.length > 2048 -> ValidationResult.Invalid("User Agent must not exceed 2048 characters")
else -> ValidationResult.Valid
}
}
}
}
評価
結論的に以下のような改善ができたと思います。
- バリデーションと直列化のコードが簡潔になり、可読性が向上した
- バリデーションと直列化でアノテーションを使用しなくなり、リフレクションによるパフォーマンスの低下を回避できた
- バリデーションに対してビジネスロジック以外のチェックを減らすことができた
また、サイドエフェクトとして以下のような点もあります。
- Regexが不要になっているか、共通化してインスタンスの使い回しができる
- max, minなどのチェックが不要になっている
- limit, offsetなど頻繁に使うパラメータのチェックを共通化できる
ただ、以下のような懸念もあります。
- LocalDateTimeやLocalDateなどのKotlinx Serializationでサポートされていない型を使用する場合、独自のシリアライザを実装する必要がある
// LocalDateTimeのシリアライザの例
object LocalDateTimeSerializer : KSerializer<LocalDateTime> {
override val descriptor: SerialDescriptor = PrimitiveSerialDescriptor("java.time.LocalDateTime", PrimitiveKind.STRING)
override fun serialize(encoder: Encoder, value: LocalDateTime) {
encoder.encodeString(value.format(DateTimeFormatter.ISO_LOCAL_DATE_TIME))
}
override fun deserialize(decoder: Decoder): LocalDateTime {
return LocalDateTime.parse(decoder.decodeString(), DateTimeFormatter.ISO_LOCAL_DATE_TIME)
}
}
fun Application.configureSerialization() {
install(ContentNegotiation) {
json(
Json {
// LocalDateTimeのシリアライザを登録
serializersModule = SerializersModule {
contextual(LocalDateTimeSerializer)
}
}
)
}
}
@Serializable
data class ExampleRequest(
// LocalDateTimeのフィールドでは、独自のシリアライザを使用する
@Contextual
val timestamp: LocalDateTime
)
- Enumのようにコンパイル時に値が決まっている型を使用する場合も、独自のシリアライザを実装する必要がある
- Kotlinx SerializationはまだJacksonほどの機能がないため、特定の機能が必要な場合はKotlinx Serializationでは実装できないことがある
- Ktor Request Validationはリクエストボディのみのバリデーションをサポートしているため、クエリパラメータやヘッダのバリデーションは別途実装する必要がある
なので、今回の対応は意図としては成功したと思いますが、まだまだ改善の余地はあるかなと思います。また、環境や要件によっては、このような改善が適さない場合もあるかもしれません。
改善内容のまとめ
以下の表に、改善前後の違いを簡潔にまとめました。
項目 | 改善前 | 改善後 |
---|---|---|
バリデーションの方法 | jakarta.validation + 手動呼び出し | Ktor公式のRequestValidationプラグイン |
アノテーションの使用 | @NotNull , @Pattern , @JsonProperty など多数 | @Serializable のみ、基本的に不要 |
UUIDバリデーション | 正規表現でチェック | UUID 型指定で型安全に |
直列化ライブラリ | Jackson(リフレクションを使う) | kotlinx.serialization(KSP利用で高速) |
バリデーションの共通化 | 各コントローラーで個別に記述 | ValidatableController で共通定義可能 |
Koinとの連携 | 取得や登録が煩雑もしくはしない | bind + getAll() で一括取得 |
最後に
今回はKtorのRequest処理を改善する方法について紹介しました。Kotlinの特性を活かし、KtorのRequest Validationを使用することで、リクエストのバリデーションを簡潔に行うことができました。また、Kotlinx Serializationを使用することで、直列化のパフォーマンスも向上させることができました。
このように、KotlinとKtorを使用することで、Javaのフレームワークやライブラリでは実現できないような改善が可能になることがあります。特に、Kotlinの特性を活かした設計や、パフォーマンスの向上が期待できる点は大きなメリットです。
今後もKotlinやKtorを使った開発において、より良い設計やパフォーマンスの向上を目指していきたいと思います。もし、他にもKtorやKotlinに関する改善点やアイデアがあれば、また共有していきたいと思います。
では、また!